里地創生プロジェクトのコアメンバーで、これまでの活動拠点および今後の活動候補地をめぐる視察ラウンドを実施しました。各地の現況や課題、今後の取り組みの方向性について、現地で得た知見をもとに整理し、レポートにしました。
▼現地視察ラウンドの動画はこちら(Instagramリール動画)
目次
1.金剛山の山林整備

所感
- 高木層は50~60年生のスギ、下層にはヒノキが見られるが、林内は暗くヒノキの成長は良好ではない。
- シカによる植生被害が顕著で、下層植生は乏しく、極めて燃えやすいスギの枯れ枝が堆積し山火事のリスクが高い。
- ヒルやマダニの生息域でもあるため、安全対策を要する。
- 広葉樹林帯ではアラカシ、クロモジ、サンショウなど有用植物が確認され、整備に際してはこれらを活用しつつ保全する方針。
- 東側斜面から尾根にかけては散策路の整備に適するが、地主が不特定多数の立ち入りに難色を示しており、調整が必要。
- ナラ枯れの兆候が北側の敷地外に見られたが、現時点では軽微。
今後の活動案
- ヤマビル・マダニの活動期である夏場は一般参加の作業は控え、冬季に皮むき間伐などの森林施業を実施。
- 秋以降、道づくりワークショップを開催予定。
- 土留め施工だけでなく「作業道づくり」を通じて通気性・浸透性を高め、「雨天時に登山道が洪水化する」問題の改善を図る。これは行政に向けた整備実績としても示す計画。

2.赤沢地区の斜面再生
①県道沿いの法枠施工地

- 金網+種子吹付による緑化工が行われているが、発芽は乏しく、アズマネザサやツルニチニチソウが侵入。
- 未施工の崩壊地(三角地帯)は裸地のままで、流出リスクが高い。種子の供給源となるコナラなどの母樹が崩壊斜面周辺に存在するため、段切り等により土壌流出を抑えて種子をこの場にとどめ、その発芽・定着が促されると考えられる。

②集落有志による崩壊斜面の整備地

- 伝統的な土留め(杭・しがら柵)による整備が進行中。先駆植物(カラスザンショウ、クサギ、タラノキ、ムラサキシキブなど)が定着。
- ススキやツル植物が裸地を覆い、自然の抑止力が働き始めている。
- イノシシによる攪乱が、過剰な整備の修正として働く側面もあり、過干渉は控えるべきとの示唆。
- 一部山道整備が進んだ地域ではハイカーの往来も見られるように。

3.沢井川(栃谷周辺)
所感
- 昨年度は高さ2mのツルヨシが密生していたが、2024年に実施した草刈りによって、今年は膝丈程度まで伸びが抑えられ、多様な植生が確認された。
- 昭和初期に施工されたコンクリート護岸により、直線的で流速の高い河川となっており、鉄砲水化や川底浸食が進行。

今後の活動案
- 自然流路回復を目的に、河床に岩を配置し蛇行を促す整備を計画。藤野まちづくり会議環境部会にて重機を用いた整備も検討する。
- 2025年5月30日には「自然に倣った草刈りワークショップ」を開催予定。
- 必要に応じて、竹製の蛇籠づくりワークショップを開催し、河川機能改善に活用。
4.佐野川の古民家と周辺山林の再生活動
所感
- 沢井川下流の支流対岸は放置竹林。枯竹の搬出と炭化による再利用を検討。
- 裏山のスギ林は金剛山よりも植生状態が良く、シカ害も限定的。
- 樹液を煮詰めてメイプルシロップが作れるイタヤカエデの稚樹が多数確認された。樹液が採取できる大径木を冬のはじめまでに確認し、来年1月下旬~2月と樹液活用を検討。

今後の活動案
- 古民家の広い庭・縁側を活かし、竹細工、炭焼き、茶体験など多様なイベントを実施可能。
- ヤマビル等の心配がなく、夏場の活動拠点として「人の通り道」づくりを進め、秋の金剛山整備にノウハウを活かす。
- 古くから子どもたちが遊び、住民が山菜採りをしていた場所の再生活用を視野に、地域の記憶と往来の復活を目指す。
5.佐野川地区の茶畑再生
所感
- 慣行農法終了後約5年が経過し、新芽が繁茂。枝の活用による三年番茶づくりが始まっているが、精製は静岡の工場に依存しているため、生産コストが高い。
- 夏に向けてスズメバチの発生や藪化の懸念があり、事前整備が重要。
- 地域では茶業が盛んだった歴史があり、再活用による鳥獣害対策と産業復興の両立が期待される。

今後の活動案
- 古民家の家主親族による茶道・菓子づくりと連携した商品開発・体験企画を検討。
- 秋収穫のお茶の実からの搾油も新たなチャレンジとして検討中。
6.沢井~吉野間の林道沿いの沢

所感
- 沢筋の林床に堆積物やごみが見られ、水の流れが悪化。U字側溝や舗装により水脈が詰まり、斜面の湿潤化が進行。
- 伐採された斜面肩部の樹木が土壌保持に貢献していたと考えられ、管理方法に課題あり。

今後の活動案
- 沢の清掃と整備を通じて健全な水の流れを回復。
- 地元住民との連携を深め、藤野まちづくりセンターを通じた所有者確認の上、環境部会として整備活動を実施予定。
おわりに
今回の視察ラウンドでは、各地で自然環境の多様な姿と向き合いながら、現地に即した再生活動の手がかりを数多く得ることができました。それぞれのフィールドにおいて、地形・植生・人のつながりを尊重した取り組みを進め、持続可能な「里地」の未来を描いていきます。
今後も活動状況を適宜WEBサイトにて発信してまいります。