代表メッセージ
里地から、未来をつくる。自然の再生を「仕事」にし、次の世代へつなぐために。
私は、この自然豊かな藤野で育ちました。
けれど、子どもの頃の私は、この町の価値をまだ理解していませんでした。
当時の藤野にはお店も少なく、遊びに行く場所といえば八王子や新宿。そこにはキラキラとした都会の暮らしがありました。
自然に囲まれた自由な環境で育ちながらも、「都会で暮らしてみたい」という憧れを抱き、大学卒業と同時に都心での一人暮らしを始めました。
都心には欲しいものがなんでもあり、どこへでも簡単に行ける。その利便性を存分に満喫していました。
けれど、コンクリートで整備された街や、人工的に植えられた街路樹の中で暮らしていると、藤野の自然の心地よさとのギャップがどんどん大きくなっていったのです。
都心で暮らす年月が長くなるほど、利便性よりも「本当の豊かさとは何か」を考えるようになっていました。

「雑草」への違和感から気づいた、自然の摂理
当時の私は、都市部の庭付きの家に住み、雑草が生えてくれば抜き、除草剤を使って“綺麗な庭”を保とうとしていました。借りていた畑でも同じように、草のない土だけの状態を理想として、せっせと草取りをしていました。
でも、草は抜いても抜いても自然と生えてきます。
その様子を見ているうちに、「これは地球にとって、髪の毛や体毛のようなものではないか」と、ふと思ったのです。
だとしたら、それが自然に生えてくるのは当たり前のこと。
その自然な事象に対して、ひたすら草を抜き、排除し続ける作業は、不毛でしかない。
自然の理に逆らっていることに気づきました。
記憶の風景とのギャップ。そして「大地の再生」との出会い
そんな違和感を抱えていた折、コロナ禍によるリモートワークへの移行をきっかけに、2020年から藤野で仕事をするようになりました。
子どもの頃に遊んだ場所を訪れるたびに、
昔はもっと緑があった。水が流れ、生き物がいて、空気が澄んでいた。季節ごとに景色が変わる、美しい場所だった。
そんな思いが、次々と湧き上がってきました。
記憶の中にあった美しい風景は荒れ果て、気軽には足を踏み入れられない場所へと変わってしまっていたのです。

その時、知人の誘いで参加したのが「大地の再生講座」でした。
環境再生医の矢野智徳さんが語る「地中の水と空気の詰まり」、そして「人の手作業で脈循環機能の改善ができる」という言葉を聞いたとき、これまで自分の中にあった違和感がすべて一つの線でつながりました。
「これを藤野で進めていかなければ、藤野の豊かな自然は未来の子どもたちにつながらない」。
強い危機感と使命感を抱き、自主的な環境整備活動を藤野で始めました。
ちなみに今の私にとって、草は「雑草」ではありません。大地の脈循環機能を支える、大事な大事な存在です。
なぜ「里山」ではなく「里地」なのか
活動を続ける中で、田んぼや畑、茶畑などの放棄地に関するご相談を多く受けるようになりました。そこで気づいたのは、私たちが対処すべきは、山奥の「里山」だけでなく、人々の暮らしと密接に関わってきた「里地」にもあるということです。
山の整備には専門的な知識や機材が必要で、誰もが気軽に参加できるものではありません。一方で、人が暮らし、農を営んできた「里地」は、高齢化や担い手不足によって手放され、自然に飲み込まれつつあります。これが景観の悪化や鳥獣被害などの深刻な問題を引き起こしています。
しかし、この「里地」に、もう一度人の手を入れることができれば、どうなるのか。
田んぼからはお米が、畑からは野菜が、茶畑からはお茶が生まれ、果樹は加工品になります。環境を再生するだけでなく、そこから得られる「恵み」を通して、地域に経済の循環を生み出すことができるのです。
自然の手入れを「仕事」にし、循環のモデルを藤野から全国へ広げたい
ただ、環境を綺麗にするボランティア活動で終わらせるのではなく、そこから生まれる価値を、企業や団体とのコラボレーションによって新しい事業や商品へと昇華させる。
自然環境の再生から「収益」を生み出し、「雇用」を創出(創生)することを目指す。
私たちが「里地創生プロジェクト」と名付けた理由です。

この雇用が、職を求めて都市へ出て行く若者たちが、自然豊かなこの地域で暮らし続けるための新しい選択肢になるはず。
日常の草刈りや山林整備、沢の整備といった自然の手入れが、そのまま仕事として成立し、同時に環境再生へとつながっていく。そんな持続可能な仕組みを作っていきます。
今、私たちは「里地の環境整備」「地域資源の再生と活用」「教育・研究との連携」という3つの柱を掲げて活動しています。
この想いに共感してくださる皆さまと一緒に、垣根を越えて、新しい仕組みを形にしていけたらと願っています。
この美しい風景と風土を、次の世代へ手渡すこと。
それが、いまを生きる私たちの役割だと考えています。
代表プロフィール

井上 進吾
(ビジネスネーム 井上幹英)
<里地創生プロジェクトリーダー / 組織の再生士 / 大地の再生 関東甲信越メンバー>
ベンチャーから大手企業まで、長年にわたり「人と組織づくり」の領域に携わる。
2021年より地元・神奈川県相模原市藤野地区にて、河川や登山道の整備、放棄地再生などの環境保全活動を開始。2025年4月に独立し、「里地創生プロジェクト」を立ち上げ本格的に活動を推進している。
企業で培った組織づくりの経験を活かし、地域課題や想いを持つ人々をつなぐ「コミュニティの結節点」として活動。専門的な自然の仕組みを、例えを交えながらわかりやすく伝える解説にも定評がある。
里地里山に伝わる暮らしの知恵や自然との関わり方を次世代へつなぎ、地域と自然が調和する持続可能な暮らしの実現を目指している。
プロジェクトメンバー
里地創生プロジェクトの活動を日々企画・運営しているメンバーです。

いたやごし 恵
<めぐるめぐみふぁーむ主宰 / 自然農×暮らしコミュニケーター>
藤野に生まれ育ち、2020年から自然農の畑を、2023年から田んぼを始める。
農薬や化学肥料、機械を使わず、なるべくお金をかけず、身近にある物だけで野菜やお米を育てることを実践。自分で育てた野菜やお米、地元のジビエを使った體が喜ぶ料理が得意。
人との繋がりを大切にし、生きとし生けるもの全てがめぐりめぐる世界を理想とする。
「つくる・食べる・暮らす」が地続きにある丁寧な暮らしを心がけ、その知恵を多くの人に伝える活動をしている。

池竹 則夫
<葛原里山暮らし研究所 所長>
20年近く勤めた建設コンサルタント会社を早期退職後、2007年に独立。2011年2月に藤野へ移住。鳥類・植物調査員として関東地方を中心に本州各地で調査を行う。
薪ストーブや養鶏、竹炭づくりを暮らしに取り入れ、循環型でネイチャーポジティブな生活を探究中。
現場や日々の暮らしで得た知見をもとに、野外観察会なども実施している。

平井 航
<地球守・有機土木協会スタッフ / 糸操り人形遣い>
伝統糸あやつり人形劇団で十年の修行の後、独立。人形製作から操演まで一貫して手掛ける中で、伝統演劇で用いられる楽器や諸道具の材料となる天然素材が、自然環境の悪化により質的劣化や枯渇している事実を知る。
数多の生物だけでなく伝統文化の生命線でもある自然環境の恢復に関わる事、そして山で仕事をする身体感覚と感性を求め藤野に移住することを決意。かながわ森林塾を修了した後、林業会社で水源林整備業務に従事しながらより本質的な方法を模索する過程で「土中環境」の高田宏臣氏に出会う。
以後、各地の「有機土木」現場で研鑽を積み、藤野に戻っては里山の手入れをする日々を送っている。

郷 和貴
<コンテンツ制作担当 / ブックライター>
東京生まれニューヨーク育ちの都会っ子だが、日本の農政に警鐘を鳴らす本の制作に携わったことをきっかけに「日本の危機的な食料自給率」「中山間地保全の重要性」「健康的な食材」に関心を抱く。
Iターン先を探していたときに同プロジェクトに出会い、旧藤野町への移住を即決。
裏方として活動を支えつつ、土と交わる生活を楽しみながら、自然農法や大地の摂理に基づく環境整備の手法、藤野の歴史・文化について学んでいる。